2008年6月30日
「スティーブ&バリー倒産間近か、時代が作った急成長チェーン」Vol.12,No.27

アメリカ流通eニュース

 スティーブ&バリーという非上場のアパレル専門店チェーンがある。創業1985年、店舗数270店舗、売上高は10億ドル弱という企業だ。伸びてきたのがここ5年ぐらいのことで、日本ではほとんど知られていない企業だと思う。
 コンセプトはカジュアルウェアだが、上限価格を7.98ドルとして、モールの中でウォルマートやターゲットよりも4割安いという超低価格を売り物とする非常にユニークなモデルを持っている。この企業が現在運転資金不足に陥って倒産寸前であることが報じられた。

 運転資金として必要な額は4000万ドルで、2000万ドルの手当てはついたのだが、残りの2000万ドルがまだ見つかっていないのだという。この4000万ドルがあれば、歳末商戦まではなんとか持ちこたえることができるとしている。
 また紙面によると、ウォルマート、ターゲット、ギャップ、シアーズホールディングなど、大手リテーラーに買収をもちかけてもいるようだが、いまのところどこも興味を示していないようだ。
 すでに倒産に強い専門家を雇っていて、今週中にもなんらかのアクションを起こす可能性があるという指摘もある。100店舗以上の閉鎖、または清算など、さまざまなオプションが論じられているようだ。
 さてこの企業、つい最近まで急成長中の注目企業として見られていたので、個人的には少々驚いた。耳目を集め始めた06年時点の資料があったので見直してみたのだが、年率70%の売上高成長率を維持して08年までに568店舗という構想を創業者がぶち上げていて、しかし現在270店舗なので、実際にはその直後から成長は鈍化していたことに気づいた。
 創業者のアドバルーンに惑わされていたということのようだ。
 モール内でウォルマート以下の価格で商品を売るという、ちょっと考えるとありえないようなモデルを持っているのだが、これには実はからくりがある。そしてこのからくりのほうに頼りすぎてしまったのがつまずきの原因である。このからくりとは、モールのプロパティマネジメント企業からのアローワンス(協賛金)だ。
 アメリカの、特に中所得層以下をターゲットとしているモールは、3つの理由で客数減に悩んでいる。一つ目は核店舗としてのデパートメントストアの集客力低下、二つ目は忙しい現代人が買い物に時間がかかるモールを敬遠する傾向があること、三つ目はモールの外に位置する強いディスカウントストア群の存在、である。このため空室率の増加に長く悩んでいて、入居してくれる店舗に対して店内改装費として協賛金を支払うのが慣行となっていた。
 おおよそスクェアフィートあたり20縲鰀30ドルが相場なのだが、知名度の高いスティーブ&バリーは80ドル程度を受け取っているようだ。この金額だと、改装費を超えて在庫もまかなえておつりが出る。つまり出店すると儲かるというわけなのである。
 モールからのラブコールに応え、初期投資ゼロという魅力的なビジネスモデルに支えられて急速に出店していったわけだが、問題はマーチャンダイジングの魅力にあった。カジュアルウェアとして価格は安いが、デザインが突出しているわけではなくて、つまり魅力は価格だけなのであった。06年ごろから有名人の名前を関したラインの投入を開始しているのだが、これも商品にユニークさを作ろうという努力だったのだろう。
 当初は繁盛したが単調なので飽きられてしまい、しかし当初の勢いしか見ていないモールがラブコールし、出店すると儲かるのでどんどん出店し、ところが突然景気が鈍化してジエンド、というストーリーである。

★斜陽モールが生んだ時代のあだ花★
 年商10億ドルに対して営業利益高が2000万ドル、という数値が漏れて出ている。営業利益率2%、店頭レベルではほとんど利益が出ておらず、出店によるインセンティブのみが利益になっている状態だったようだ。自転車操業を続けていたわけである。
 時代のあだ花、とでも言おうか。絶頂にあった06年時に、「我々は小売業界のグーグルだ、5000店舗まで成長できる」と創業者がコメントしているのだが、派手にぶち上げられる言葉ほど眉に唾をつけてみなければならない典型というような気がする。

鈴木敏仁 (01:30)
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