2008年11月 3日
「機関投資家がターゲットに不動産の分離を提案」Vol.12,No.45

アメリカ流通eニュース

 ターゲットが信販事業における売掛債権の半分を金融機関に売却したのは今年の初頭のことであった。その後の金融業界の混乱と景気の後退による債務不履行の増加を鑑みるに、この売却判断は時宜を得ていたと言わざるを得ない。
 昨年このプランを提案し、動きの遅いターゲットの経営陣に売却を強く迫ったのが投資家のウィリアム・アックマンであった。経営に積極的に関与する機関投資家をアクティビスト型と呼ぶが、アックマンは典型的なそれで、今まで多くの上場企業に対して経営プランを提示し動かしてきた。
 このアックマンがターゲットに対して新たな戦略提案をつきつけている。

 提案内容は、ターゲットが持っている不動産を切り離してREITとし、別会社として運営せよというものである。
 ターゲットは総店舗数1,680のなんと85%が自社所有なのだそうだ。土地建物ともにすべて所有していて、資料によるとこの比率は米国流通業界では最も高いという。
 私の知る限りでは、ウォルグリーンの自社所有比率が20%で、これがおそらくアメリカの平均的な数値ではないだろうか。
 例えば最近CVSに買収されたロングスは約40%が自社所有物件で、比率がかなり高いと言われた。人工密集地に不動産を多く持っているため評価価値が高く、CVSが買収した理由の一つとも言われている。またCVSによる買収価格が低いと機関投資家が主張していたのだが、これは自社物件に対する見積もりが低すぎるという論旨なのであった。
 こうみると、やはりターゲットの比率は突出している。
 例えばウォルマートはスーパーセンター出店時に、周辺の土地を広く買ってしまい、開発したあとにあまった部分を売って利益を出すということをやっている。総売上高からすれば微々たるものなのだが、少しでも機会があるのなら、ということである。
 また自社で使用する部分については、開発後に不動産をすべて他社に売却してリースバックするケースがほとんどである。固定資産のオフバランス化のメリットは少なくなくて、こちらを選択する企業がいまはほとんどだろう。
 従ってターゲットの不動産自社所有戦略はやはり珍しいと言うことができる。同社の総資本に対する長期有利子負債の比率は比較的高いのだが、積極的な買収戦略を取っているわけでもなく、なぜレバレッジが高いのか不思議だったのだが、このあたりに理由があるのかもしれないと思っている。
 さてREITとして分離するメリットなのだが、利益の最低90%を配当として分配する限り連邦税を免除される点があげられる。またターゲットを優良テナントとして長期リース契約を結ぶことによってREITとしての企業価値が上がるとアックマンは主張している。
 アックマンのプランでは分離するのは土地だけで建物は残す。理由は改装する自由をターゲットが保有するためだとしている。
 一方ターゲット側の懸念は、土地を失うことで借り入れに対する信用レーティングが落ちて資本の調達コストが上がってしまうことにある。逆に言うと今までは土地を担保として調達コスト下げてきたということを意味している。
 この提案に対してターゲットは回答を保留しているのだが、どうリアクションするのか楽しみではある。

★アメリカの機関投資家の成熟度★
 信販事業の売却提案と合わせて、アックマンの包括的な意図は小売ビジネス以外の事業をスピンオフさせようとしているようだ。投資家としての現実的な目的は株価だろう。
 ビジネスの価値を株価に正確に反映させたいということと、焦点を絞ることが株価を上げることにつながるということの二点につきる。とくにターゲットのような優良企業の場合、他の事業が絡んでいない方がストレートにその価値が株価に反映されて良いのである。
 ただ長期的には、リソースを核事業に集中させるという経営レベルでの目的もあるだろう。多角化には善し悪しがあるのだが、“悪し”の方に傾いてしまう企業の方が多いように思う。
 今回の事例、日本人がイメージしがちな“モノいうハゲタカ株主によるごり押し”という印象はない。ときに経営側を超えるようなロジックや正論を持っているのがアメリカの投資家で、ここに機関投資家コミュニティの成熟度を感じるのである。

鈴木敏仁 (02:33)
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