2011年8月 8日
「デイリーディールでロイヤルなお客を獲得できるのか?」Vol.15,No.32

アメリカ流通eニュース

 フラッシュマーケティングという言葉がある。定義についてウィキから引用してみる。
「商品やサービスの提供にあたり、割引価格や特典がついたクーポンを期間限定でインターネット上で販売する手法。一般に24時間から72時間程度の短時間(フラッシュ)に、集客と販売および見込み顧客の情報収集が行われるという特徴を持つ」。
 詳細はウィキをさらにご参照いただくとして、要は短期間の値下げプロモーションをネットで提供する仕組みのことである。ネット販売企業は昔からこの類の企画は実施してきているのだが、グルーポンがシステマチックに広範囲に提供する仕組みを構築し、その手法が一躍注目を浴びるようになった。
 グルーポンは2008年の創業からわずか3年目の今年に上場して250億ドルを調達している。仕組みに対する期待から買われているのだろうが少々過熱気味で、個人的にはバブっているのではないかと少々懸念している。

*****

 先日、日本のとあるローカルチェーンレストランのオーナーと話をする機会があった。グルーポンについて質問され、「バーゲンハンターばかりでロイヤルなお客は少ないと言われていますよ」と答えたところ、「実はまったくそのとおりでホッパーばかりなのです、確認できてよかった」という言葉が返ってきた。
 ホッパーという表現は外食業界用語だろうか。あちこち飛び回るという語感でなかなかしっくりくる言い回しだ。実はその効果は一時的なものに過ぎないという調査結果がアメリカではだいぶ前から出ているのだが、日本の実務家の見方と一致したというわけである。
 その調査結果からいくつかコメントを拾ってみよう。ちなみに日替わりで作られる販促ディールという意味でアメリカではデイリーディールを使うことが多い。
「このプログラムには飽和というリスクが大きい。バーゲンから感じるスリルに対する免疫が作られて最終的にはスリルを感じなくなる。"今だけ"や"大安売り"といった売り文句で10通近い販促メールが毎日届くと、いま買わなければならないと思わせることが極めてむずかくなる。もしどれもいつも値下げされていると、値下げ価格が新たな定番価格となってしまう。」(消費者心理専門の学者)
「ネット購買者の52%が過剰なデイリーディールに飽きていて、ほぼ同じ50%強の人が半額まで値下げされていれば買うかもしれないと答えている。」(ネット企業による調査)
「デイリーディールに対して最初は熱狂的に興味を持ち友人や家族と共有しようとするが、時間が経つにつれて共有しなくなる。古典的な現象だ。」(外食産業への影響を調査している大学教授)

◇価格販促が持つ宿命をどう克服するか◇
 フラッシュマーケティングと言うと何か特別なマーケティングのことかと勘違いしやすいのだが、デイリーディールと言われると分かりやすいのではないだろうか。毎日提供される特別なディールというわけで、言ってみれば日替わりの目玉のようなものである。日本のスーパーマーケットでは時間制の割引まで存在することを考えると、とりたてて珍しい手法というわけでもない。
 違いはネットで不特定多数に訴求し、あらかじめまとまった数のお客による購買約束をとりつけておくことぐらいか。どのぐらい売れるか事前に分かる点は、蓋を開けるまで分からない店頭販促に比べると便利かもしれない。
 いずれにしても本質は値下げ販促であってそれ以上でも以下でもなく、だから必ず飽きられるというリスクを背負っているわけだ。それゆえ上記のような調査結果が出てくるというわけで、よく考えればごく当たり前の結果とも言える。
 また本質的にバーゲンハンターであるがゆえにロイヤルカスタマーになる可能性も低いということなのだろう。新規顧客開拓の初期ツールにはなりそうだが、来店してディール商品を買ってもらい、それからどうやって儲けさせてもらうかが難しそうだ。
 スーパーマーケットのビッグYグがグルーポンで実験したことについては書かせていただいた。グルーポンで集客し、FSPと連動させ、店頭でカードを使うことで大幅な値下げが適用されるという仕組だ。購買履歴の分析と組み合わせることで新たな何かができるかもしれないという期待も感じるのだが、しかし結局は新たな販促の一つで終わるのだろうという気もしている。
 グルーポン型の新たな販促手法に対する小売や外食の正しいアプローチは、深入りもせずしかし無視もせずという姿勢ではないだろうか。過剰な期待をかけると痛い目に合うかもしれないという警戒感だけは持っているべきだろうと思っている。

鈴木敏仁 (01:05)

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