アメリカ流通eニュース
西友CEOのカレジッスキーが業績発表の席で、証券アナリストによる「EDLPは今後どうするのか?」という質問に対して、「それはもはやBuzz Wordだ」と答えたのだそうだ。ウォルマートはEDLPを企業哲学にまで刷り込んでいる企業であり、つまりEDLPとは非常に高い位置にある企業戦略であり、これをBuzz Wordとしてしまう真意をはかりかねている。
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Buzzとは蜂がブンブン飛ぶ様子を表現した擬声語で、転じて人があちこちでヒソヒソ話している様子を言い、Buzz Wordと言うと巷で流行っている言葉、というような意味で使う。Buzz Marketingはクチコミマーケティングである。
カレジッスキーはこの言葉の前に、「My favorite question、それは好きな質問だ」と言い、Buzz Wordに続けて、「これからはカスタマー戦略だ」と言ったのだ。このリアクションは非常に意味深で、言葉が短いだけにいろいろ深読みできるのである。
まずマスコミに迎合した可能性がある。オーケーといった完全EDLP企業や、一部SMやGMSのように特定商品を選択してEDLP化する企業など、EDLPはすでに日本で通用しているにもかかわらず、マスコミにはEDLPは通用しないという論調が今でも根強く、これに歩調をとりあえず合わせたという見方だ。
次に今後の買収戦略を鑑み、EDLPを選択していない将来の相手企業を逆なでしないよう、とりあえずEDLPを引っ込めたという見方である。
また「聞き飽きた」という気分の表れに過ぎず、言葉のアヤでこう言ってしまったという見方もできるのだが、もしそうなら彼のアカウンタビリティは地に落ちる。
実はもうひとつ、最悪の理由を私は考えている。
米国本社のマーケティング統括からマーチャンダイジングの責任者へとつい最近横滑りしたジョン・フレミングがニューヨークタイムズのインタビューに応じ、新しく設定した顧客セグメンテーションについて語っている。社内用の技術タームで一般に知らしめるタイプのものではないという。
「Brand aspirationals」:収入は低いが高級ブランドに執着しているひとたち、「Price-sensitive affluents」:価格にセンシティブな富裕層、「Value-price shoppers」:低価格商品しか許容できない人たち。
この分類のカギは、3つともにすべて低価格を主軸に据えつつ、低価格を目的として集まるという視点で顧客層を拡大している点にある。よくある勘違いは、ウォルマートは低所得層向きの業態であるという見方なのだが、さにあらず、ウォルマートを支持するデモグラフィックグラフはアメリカ全体のデモグラフィックと重なっているということは拙著にも書いたことである。
例えば「Price-sensitive affluents」とはお金に余裕はあるが節約したい人たちという意味で、実は富裕層もウォルマートを結構支持しているという事実についても拙著に書いた。
また単なるデモグラフィク分類からライフスタイル分類へと進化している点と、今すでにウォルマートを支持しているお客に絞り込んだ点には注目できよう。
★EDLPを土台としたカスタマー分類★
さてなぜこの新しい顧客分類がカレジッスキーのコメントと関係あるのかというと、この新しいカスタマー分類を前提として、‘これからはカスタマーだ’と発言した可能性もあるからである。本社ではこれからは‘カスタマー’だとしているから、西友でも‘カスタマー’だと。
そしてなぜ最悪だとするのかというと、この3つの分類は‘価格を主軸に据えつつ’、顧客を正しく分類してMDを組みなおそうとしているものであり、EDLP戦略に変更を加えるものでは決してないからである。EDLPを価格戦略の土台とし、低価格に引かれて来る3つのタイプの顧客向けにMDを考える、という意味だからである。EDLPが完成していることを大前提としているからである。
もしこの点をカレジッスキーが見過ごし、本社におもねって、または土台を大前提としていることを見過ごして表面的な分類戦略だけにとらわれているのだとしたら、ちょっとまずいぞと感じるのである。
EDLPはもう関係ないとするならば、ウォルマート本社の企業哲学はどうするのか。西友では異なる企業哲学を適用するのか。そうではなくて、単に「聞き飽きた」であることを祈るしかないのだが・・・。
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