2008年9月15日
「ベストバイによるナップスター買収、リアルとネットのシナジーに期待」Vol.12,No.38

アメリカ流通eニュース

 ベストバイがナップスター買収を発表した。買収総額は1億2100万ドル。ナップスターの株価は1ドル前後とほとんど機能しておらず、買収株価は2ドル強と100%以上のプレミアムがついているのだが、10億ドル以上の手持ちの現金を持つベストバイにとっては我々が車を現金で買うようなレベルである。
 この買収、ベストバイの過去の買収ヒストリーを考えると非常におもしろいのである。

 もともとナップスターは音楽をネットで無料交換するサービスとして2000年にスタートしている。学生など若年層の支持を獲得しマスコミの寵児となったのだが、著作権侵害など法的な問題で頓挫した過去を持つ。
 このナップスターの登場が音楽販売ビジネスを揺り動かす契機になったと私は思っている。音楽CDをデジタル化し、PCに格納し、ポータブルプレーヤーで聞く。このデジタル化されたファイルを不特定多数とネットで交換してしまう点で問題を引き起こしたのだが、音楽をデジタル化して聞くというプロセスを一般に認知させた点でナップスターが果たした役割は小さくない。
 ちなみにアップルのiTunesとiPodの発表は2001年であり、ナップスターはアップルに先駆けている。ただしアップルは音楽の配信であり、無料共有システムでとどまっていたナップスターはここで競争に負けた。2003年、ソフトウェアメーカーのRoxioが買収し、社名をナップスターに変更、配信サービスに参入したのだが、ハードウェアも持つアップルに追いつくことはすでに不可能であった。
 昨年度の売上高は1億2600万ドルだが赤字で、一昨年も赤字、どうやら03年以来黒字化していないようだ。
 現在は月間定額制でダウンロード数制限なしというビジネスモデルで、会員数が死命を制するのだが、一年間で76万人から70万3000人にメンバー数が減っていて、厳しい状態にあった。
 さてベストバイの目論見だが、音楽CDのリアル販売とネット販売のギャップを埋めることが目的である。店頭でのリアル販売ボリュームが年々減少傾向にあり、これを立て直すことが焦眉の急となっていた。
 同社が描いているモデルは、ただ単に店頭で売って、ネットで売って、終わりという簡単なものではない。店頭でサービスとデバイスを関連販売する、サービスと商品を包括的にまとめた幅広いセレクションによるデジタルライフを提案する、という。
 このあたりの説明は少々抽象的で分かりづらく、これからの店頭の変化を注視するしかないのだが、一つだけ言えることがある。ベストバイが長く取り組んできたことは単に単品を売って価格競争に陥る愚を防ぐことであり、その好例の一つがマグノリアによるホームシアター売場であって、おそらくこの延長線上にナップスターもあるのだろうと推測できるということである。
 iTunes+iPodというソフトとハードによる囲い込みをイメージしているのかもしれない。資料では言及されていないのだが、音楽CD売場がナップスターという名称にこれから変更されることもありえる。ムービーダウンロードやSNSなどネットサービスの拡大戦略も念頭にあるのかもしれない。

★変化に先駆けるベストバイ★
 PC+ギークスクワッド、TV&オーディオ+マグノリア、アプライアンス+パシフィックセールス、携帯電話+ベストバイモバイル、そして音楽CD+ナップスター、これはベストバイが部門を強化するために組み上げてきたブランドリストである。この売場ブランディングの手法において、他のいかなる企業の追随も許していない。
 ウォルマートも止まらない企業だが、ベストバイも止まることを知らない。音楽CD販売のパラダイムシフトに乗る、そんな意図を今回の買収に感じるのである。

鈴木敏仁 (01:43)
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